「姫ちゃん安心して。今は産休取りやすくなったし、いつでも結婚出産できるわよ」
祥子さんは先程とはうって変わって、キラキラとした目で私を見る。なんだか期待されているようで、落ち着かない。
「あの、そのことなんですけど、実は……」
彼氏と別れた――と言いたかったのに、突然肩を叩かれて、私は飛び上がるほど驚いた。
「ねえ、君たち、今日はお祝い会なんだけど、女子会になってない?」
見上げれば、私の肩に手を置く早田さんが、爽やかに微笑みながら立っていた。
「きゃあ、早田さん! 違います、いなくなって寂しいって話をしてたんです」
真希ちゃんが慌てて否定し、祥子さんと私もうんうんと頷く。
「ほんと? 厄介なやつがグループからいなくなって嬉しいんじゃないのー?」
「まさか!」
「ははっ、僕はちょっと寂しいな。皆と仕事するの楽しかったから。ねえ?」
そう言って、早田さんは目配せをした。
私はそれに合わせて軽く頷く。「でも課長として同じフロアにはいるから、またよろしくね。あとは新人の教育は任せたよ」
早田さんはもう一人の主賓、大野くんを顎で指す。大野くんのまわりに人はいるものの、大野くん自身はひとりしっぽりと過ごしていた。
寂しそう……ではないかな。あまりはしゃがないタイプのようで、楽しいのか楽しくないのか表情からはよくわからない。
「それなんですけど、大野さんなんか怖いんですけど」
真希ちゃんがズケズケとものを言い、早田さんは苦笑いをした。
「そうだね、ちょっと無愛想だよね。大野、こっちこい」
早田さんが呼ぶと、大野くんは返事をして表情ひとつ変えずにこちらに来た。
私よりも四、五歳くらい若いのに、いつもクールで落ち着いている。